3月23日「脱炭素時代の新しいまちづくりを考える
―官民連携による『かわさきカーボンゼロチャレンジ』の推進」
続いて、川崎市の4つの部署より、脱炭素時代の新しい街づくりに向けた川崎市の取組をご紹介いただきました。
「脱炭素化に向けた川崎市の取組」
環境局 地球環境推進室 協働推進・国際環境施策担当
五十嵐美保子担当課長
川崎市は2020年2月の「2050年二酸化炭素排出実質ゼロ宣言」で脱炭素、カーボンゼロへと大きく舵を切り、同年11月に脱炭素戦略「かわさきカーボンゼロチャレンジ2050」策定、具体的な取り組みを続けている。
もともと川崎市は1998年から地球温暖化対策に取り組むなど、長年地球環境に対する高い意識を持ち続けてきた。2010年には「川崎市地球温暖化対策推進基本計画」を策定、その活動をより具体化し、2018年には1990年比で19.3%の二酸化炭素排出量削減を達成している。この基本法は2018年に改定され2030年までの取り組みを定めましたが、気候の急激な変動、世界的な脱炭素化の潮流の加速を受け、前述の2020年の宣言発出となり、新たに2050年の低炭素社会の実現を目指し、令和4年度に再度の改定が行われた。
五十嵐課長からはその改定の要点をお話しいただいた。
環境教育、啓発も含めた積極的な取組を
「地球温暖化、脱炭素化の推進が世界的な潮流となっているのと同様に、川崎市でも、気温が2度上昇すれば市を支える臨海の産業地帯が水没するというデータもあり、気候変動のリスクが身近に感じられるようになっています。また、川崎市は産業で高度経済成長を支えてきた一方で、甚大な産業公害も経験しており、事業者による積極的な取り組みと市民の環境意識の向上により、公害を克服してきたノウハウもあります。
二酸化炭素や温暖化は公害のように目に見えるものではありませんので、市民の皆さまに伝えにくい、取り組みが難しいという側面もありますが、環境教育、啓発も含め、積極的に取り組んでいきたいと考えています」
川崎市地球温暖化対策推進基本計画では、その活動指針が具体的に定められており、今回の改定のポイントは以下3点だといいます。
・2050年の将来ビジョンの明確化
・2030年度の削減目標等の設定
・施策の強化と5代プロジェクト
「ビジョンに「2050年の市域の温室効果ガス排出量実質ゼロを目指す」を掲げ、2030年度までに2013年度比で50%の排出量削減という中間目標を設定し、中間目標には民生系、産業系、再エネ等、個別の目標も細かく設定しました。さらにこの目標達成のために8つの方向性が提示され、40の具体策が策定されています。そして、この40施策のうち、特に事業効果の高い事業を5大プロジェクトに位置付け、実施計画においても重点的に推進していきます」
2050年の目標達成に向けて
ビジョンに「2050年の市域の温室効果ガス排出量実質ゼロを目指す」を掲げ、2030年度までに2013年度比で50%の排出量削減という中間目標を設定。中間目標には民生系、産業系、再エネ等、個別の目標も細かく設定した。さらにこの目標達成のために8つの方向性が提示され、40の具体策が策定されている。そして、この40施策のうち、特に事業効果の高い事業を5大プロジェクトに位置付け、実施計画においても重点的に推進していくという。
5大プロジェクト①は再エネ分野で、地域エネルギー会社等の新たなプラットフォームを設立し、地域の再エネ普及を促進するというもの。2030年度までに33万kWの再エネ導入を目指す。その中心となるのが、建て替えが進み令和5年に稼働開始する廃棄物処理施設「橘処理センター」。焼却により120GWの発電が見込まれており、新たに設立される地域エネルギー会社がその活用を推進することになる。
5大プロジェクト②は、川崎臨海部のカーボンニュートラル化・市内産業のグリーンイノベーション推進プロジェクト。川崎市に集積する環境技術産業、研究開発機関を最大限に活かし、立地企業とともに臨海部のカーボンニュートラルを目指し、「川崎カーボンニュートラルコンビナート構想」を立案し、その実現を目指す。
5大プロジェクト③は市民、事業者に向けて、行動変容・再エネ普及等を促進するというもの。脱炭素モデル地区、先行地域を形成し、啓発するとともに行動変容の仕組みを構築する。完全循環型のプラスチックリサイクル都市や、取り組みを集約する「脱炭素アクションみぞのくち」が構築されている。
5大プロジェクト④は「交通環境の脱炭素化に向けた次世代自動車等促進プロジェクト」で、EVの普及を中心とした交通分野の脱炭素化を促進する。EV/FCVステーションに対する税制の優遇措置などが具体的な施策となる。
5大プロジェクト⑤は、市の公共施設の再エネ導入等を柱とする公共施設の脱炭素化プロジェクト。市役所を中心に脱炭素化、再エネ導入100%化を進め、市民の模範となることを目指すという。また、プロジェクトを進めるためにESG投資を促進しており、環境事業に限定したグリーンボンドを発行した。これは政令指定都市では初の取り組みで、50億円発行されている。
「あらゆる事態が気候危機に進んでいる今、2050年の目標達成には市民のみなさま、事業者の皆さま、行政が一体となって取り組みを加速する必要があると考えています。ぜひ、計画をご一読のうえ、ご協力をお願いできればと思っています」
「川崎市のグリーンイノベーション・オープンイノベーションの取組」
経済労働局 国際経済推進室 グリーンイノベーション担当
野村有紀子担当課長
野村課長からは、川崎士が取り組むグリーンイノベーション、オープンイノベーションの取り組みについての報告があった。これは先述の5大プロジェクト②の「市内産業のグリーンイノベーション推進プロジェクト」に含まれるもので、「かわさきグリーンイノベーションクラスター(GIC)」と「川崎国産環境技術展」の2つについて解説した。
環境課題の克服が現在の取組に集積
「両方とも、昨今の脱炭素化の動きから生まれたものではなく、産業公害などの環境課題を克服してきたことによる環境技術の集積があり、『産業と環境の調和』を考えて続けてきた取り組みであることは強調したい点です」
GICは、2015年に環境技術・産業の振興と国際貢献を目的にしたネットワークとして設立されたもので、企業、NPO、大学、学識者、行政など多様なプレイヤーが参画する産学官民連携の組織。現在川崎市外の企業も参画しており、市内事業者はおよそ4割。オープンプラットフォームを形成し、研究開発や実証実験、ビジネス展開の支援、ビジネス機会の創出、海外展開への協力などを行っている。コロナ禍の現在はオンライン中心だが、年4回のGIC会員の交流会を行い、情報の共有、ニーズの吸い上げ、案件の創出、組成などを行う。市内企業が大手コンサル企業と組んで環境省案件に参画した事例、水分野で2企業が外務省の脱炭素技術海外展開イニシアチブに採択されるなど、成立案件も多数生まれているという。
「佐賀市の脱炭素の活動にGICから会員企業も参画しており、多くの市内企業が活躍しているという印象です。例年国内外問わず8件くらいのプロジェクトが組成されており、活発に活動していますが、大企業だけでなく、市内の中小企業も非常にがんばって作り上げているところに特徴があると思います」
川崎国際環境技術展は、2021年に14回目を数える歴史ある展示会。産業公害の時代から積み上げてきた環境技術を国内外に発信するとともに、ビジネスマッチングの場を提供することを目的としている。国際連合工業開発機関(UNIDO)と連携し、海外にも市内企業を「強く推している」という。2021年はオンラインでの開催となったが、350件のビジネスマッチングを行った。
野村課長は、GIC、国際環境技術展ともに市外企業の参画も大いに歓迎すると述べている。CSV開発機構およびその会員企業にとっても、環境技術によるビジネス組成のチャンスと言えるかもしれない。
「全国都市緑化かわさきフェアについて」
建設緑政局 緑政部 緑化フェア推進担当
藤島直人担当課長
市民と行政のパートナーシップがまちに緑をもたらす
全国都市緑化フェアは、1983年(昭和58年)に第1回大阪で始まった地方博覧会のひとつで、緑化意識の高揚、都市緑化に関する知識の普及、緑豊かな潤いのある都市づくりへの寄与などを目的にしている。その令和6年度第41回が川崎市で開催される。
「ちょうど川崎市政100周年の迎える年でもあり、その象徴的な事業のひとつに位置付け、二期開催という他には例のなかった手法で開催します。これまでにない緑化フェアとして、一過性でなく100年後のひ孫の世代まで今と同じように楽しく暮らせる社会を作るきっかけとなることを目指し、多様性とインクルージョンを重視し、多様な主体が繋がりあえる機会をつくり、イノベーション創出につなげたいと考えています」
基本方針には、都市緑化の新たな形を先端技術で作ること、行動を喚起すること、環境・社会・経済的価値を同時実現する社会のあり方を示すことなどが掲げられている。市内の北部=生田緑地、中部=等々力緑地、南部=富士見公園の3カ所にコア会場を設置し、それぞれの地域の特色のある取り組みを発信し、最後にその取り組みすべてを市全体で一体化し盛り上げていくという設計。そして、このコア会場を中心に市内全域の各地で協賛・連携会場を展開する。
協賛・連携会場では先進技術を活用し、誰もがフェアを体験できる仕掛けを作り、市民・企業・行政などの多様な主体が協働し、共創する取り組みにつなげたいとしている。展開イメージは出展にかぎらず、調達や交通、飲食、物販など多岐に渡る。「この成否には、緑の枠にとらわれずに多様な幅広い企業の皆さまのご参画が重要かと考えています」と藤島課長は呼びかける。
川崎市は、江戸時代の昔には南東部には二ヶ領用水をもとに形成された水田地帯が広がり、北西部の丘陵地帯には雑木や果樹などの里山、豊かな緑が広がっていた。しかし、明治に入ってからの産業化、宅地化の進展などによって、昭和30年代には緑の減少が大きな課題に。それを食い止めたのが市民らの環境保全の活動であり、昭和48年には「川崎市における自然環境の保全及び回復育成に関する条例」が制定され、市民と行政のパートナーシップによる樹林地の保全と育成の取り組みがスタートしたという。藤島課長は「川崎市の緑の歴史は、市民と行政のパートナーシップの歴史であるといっても過言ではない」とし、かわさき緑化フェアを契機にした都市緑化、レガシーの創出における市民の役割に期待を見せる。
「イベント開催前から仕組みづくり、機運醸成を促進し、市民全体の意識の改革や行動変容につなげ、一過性でない取り組みとして持続させ、川崎らしい文化の創出につなげたい。緑化フェアが、脱炭素、カーボンゼロに資する緑化や、市民の行動変容の契機になり、その市民の行動が川崎の新しい緑の文化を育み、誰もが住み続けたいと思うまちづくりにつなげていくこと。行動を文化にしていくことが、かわさき緑化フェアを行う意義かと考えています」
そして最後には改めて市内外を問わずさまざまな企業の参画を呼びかけて締めくくった。
「脱炭素社会の実現に向けた木材利用促進に関する取組」
まちづくり局 総務部 企画課 塚田雄也課長
国産木材を使った『都市の森』を目指して
全国の人工林が本格的な利用期を迎えていることを背景に国が木材利用を促進、平成22年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行され、公共施設等を中心に木材利用が本格化。その後令和3年の改正によって「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」となり、民間建築物、高層建築物への木材利用の道が大きく拓かれた。また、令和元年から始まった森林環境譲与税も木材利用促進を後押しする。こうした状況を受けて、川崎市でも木材利用に力を入れるようになった。
「川崎は緑が豊富といっても、森林面積は5%程度で、川崎産の材というものもありませんし、林業関連の事業者もほぼいません。そのため、消費地であるという特質を生かして、川崎の中で国産材をたくさん使われている環境、『都市の森』を作るのが狙いとなっています」
川崎市は令和12年までは人口が増加される見込みで、森林環境譲与税は人口に応じて按分されるため、森林環境譲与税を活用した事業として、木質化の事業を進めている。その活動は「公共建築物への木材利用促進」「民間建築物への木材利用促進」「地方創生に向けた連携」の3つを柱とする。
公共建築物への木材利用促進では平米あたりの木材使用量を定めた。これは林産地以外では、東京都江東区、港区、川崎市でしか見られない取り組みだという。新設された市内の小学校では、当初の目標を大幅に上回る2.5倍の国産木材を利用したほか、区役所などの公共施設で部分的に木質化リフォームを行うなどの取り組みを広げている。
民間建築物への木材利用促進にあたっては、平成27年に「川崎市木材利用促進フォーラム」を設置。有識者、公益団体、民間事業者、行政団体などさまざまなサプライヤーのプラットフォームとして、現在、120社を超える団体が参加している。目的は、木材消費地・川崎としての強みを活かした国産材利用のあり方を模索し、その利用拡大を図ることにある。そのため、木材利用促進の課題を共有し、解決のための実務的な検討を行う作業部会、今後の木材利用の方向性を検討する運営委員会、林産地などの川上の自治体との情報共有を行う行政部会で活動を行っている。発足後、事業者マッチングのための視察や技術交流会、講習会のほか、令和3年には、栃木県と連携し、林産地側との林産地視察ツアーなども開催している。
「市内の設計士や施工業者などの事業者とともに林産地を訪問し、伐採現場や地域の木造建築を見学すると学びも多い。川崎ではどんな木造建築が可能なのか、望まれているのかを林産地にお伝えするとともに、こちらも林産地に即した建築を考えることができるようになりました」
商業施設を中心に多くの実績を上げている「木材利用促進事業補助金制度」も、次年度から適用範囲を拡大し、商業施設だけでなくオフィスのエントランス、待合室や応接室など人の目に触れやすい場所などへの補助も厚くしていくという。
3つ目の地方創生に向けた連携では、フォーラムの行政部会が中心となって、東京・神奈川・千葉・埼玉の9都県市が消費地として連携し、林産地のある15の自治体とネットワークし、ゆるやかなつながりを構築。消費地における林産地のPRや、木質化の普及啓発を実施するほか、事業者のマッチングや機会創出にも取り組む。令和2年には川崎市民が林産地を訪問する「森林等地域資源体験ツアー」、令和元年に続き、令和3年には木を用いたさまざまなアイテムを紹介する「優しい木のひろば」などのイベントを開催している。
「優しい木のひろばでは、小田原市、静岡市、和歌山県、秋田県といった自治体にご協力いただき、木の良さを大勢の市民の皆さんにお伝えすることができました。イベントを通して川崎市内の事業者とのつながりも生まれ、今後の活動が広がりそうです」
今後、民間で木質化のノウハウを蓄積するとともに、一般市民の木の良さを普及するという準備段階を経て、2030年までに、新築公共建築すべての木造・木質化の実現を目標に活動を展開していく。また、2030年までに民間での木質化の機運を高め、2050年までに木質化の点と点をつなぎ、面として見えるまでにしたいと抱負を語った。