3月23日「脱炭素時代の新しいまちづくりを考える
―官民連携による『かわさきカーボンゼロチャレンジ』の推進」

最後に五十嵐教授、報告した課長らによるディスカッションを行いました。

冒頭に、オンライン参加者から次のような質問があり、五十嵐課長が回答した。
質問者「目に見えない脱炭素活動の効果を、どのように可視化し、市民の皆さんに認識してもらうようにしているのか。脱炭素アクションみぞのくちで取り組まれている工夫などがあったら教えてほしい」
五十嵐課長「脱炭素アクションみぞのくちは、2021年7月に推進会議が設立され、その中でさまざまなアイデアを出していただいている状況です。会議には水素ステーションを手掛ける企業や、商業施設大手企業、小売大手企業などが参加されています。今年は、商業施設と連携したセミナーを開催し、楽しみながら脱炭素を学んでいただきました。推進会議以外でも、各事業者が独自にイベントを企画するなどもしています」

次に五十嵐教授から、川崎市の報告を聞いてのコメントと質問があった。
五十嵐教授「自然があるからこんなことができます、というのではなく、『都市部だからできること』にすごくフォーカスしている点が、非常に重要であるように思いました。このような取り組み方は、まだ東京でもできていませんし、川崎市が先頭を切って実践することで、じゃあ東京でもできる、大阪でもやれるじゃないかと波及させることができる。その意味でも、非常に先を行っていると思います。また、この歩みを進めるために、どんなサポートができるのか、私も協力し、環境省をはじめ国からも協力を引き出せたらと思います。
また、先程の質問と重なりますが、市民の皆さんの貢献の効果を可視化する方法はやはり必要であると感じました。木の製品を買うと二酸化炭素これだけ減らしました、木の建物を建てると、これだけ二酸化炭素を減らしますといったことを証明するサーティフィケーションのようなものは検討されてはいないのでしょうか」
五十嵐課長「証明書を出す、表彰するといったところまでは議論ができていません。ただ、『これをこうすれば、これだけ貢献している』という例をパンフレットに記載し、活動の意義を理解してもらうようにしたり、環境教育イベントなどで効果について詳しくお伝えするようにはしています」

野村課長「今の話に連動しますが、中小企業の皆さんに、脱炭素活動の効果を実感してもらうことの難しさを感じています。市では中小企業の脱炭素活動の支援に力を入れてはいるものの、中小企業の皆さんは、脱炭素の重要性は分かるがリソースを投入して実践してもどれだけメリットがあるのか、よく分からないとおっしゃる。そこをどう推進するのか、なにかお考えがあればお伺いしたいです」
五十嵐教授「私も中小企業は、一番難しいと感じています。大企業は環境に投じるコストもあり、回収まで耐える体力もある。市民の皆さんは、心からやりたいと思い、取り組んでいる。しかし、中小企業はコストとの兼ね合いでどうしても取り組みにくい。
川崎のように産業が多い地域であるならば、インセンティブをつけることが重要ではないでしょうか。大企業が、中小企業が作る環境に良い製品を買えば、買った大企業にも売った中小企業にも、インセンティブが入る。それはお金でなくても良く、認証マークのようなものでも良いかもしれません。それがあれば中小企業が作る意味も生まれるし、『安いから買う』以外の価値が生まれるわけです。環境に良いものを作れば川崎市がオーソライズするということが定着してくれば、川崎の認定だから買おうという方向に行くと思いますし、今実際にその方向性にじわじわと進んでいると思います」

塚田課長「カーボンクレジットもありますが、市域に5%しか森林がない川崎市では難しいと思います。今後のあり方について、なにかご教示いただけることはありますでしょうか」
五十嵐教授「今後は『どこの森林と組むのか』が、非常に重要になってくると思います。川崎市は宮崎県と協定を結び、その森林を活用するというお話もありますよね。林産地側では、森林のポテンシャルを測定、評価してほしと考えているはずです。そこを川崎市の環境技術を持った企業が評価するということを積み上げていけば、川崎市と提携する森林の価値は高いということになるでしょう。おそらく今後10年で、都市がより環境効果の高い森林と提携を求めるようになり、全国の森林の奪い合いが始まると思われます。その時に川崎市と提携すれば価値が高いというブランドが定着させる必要があるでしょう」

藤島課長「脱炭素の取り組みを大きなムーブメントにするために、市民の皆さんに説明すると、『我慢すればいいんでしょ』という声が大きく、五十嵐先生がお話したような、明るい未来を描き切るところまでいけていません。今後、市民の皆さんにどのように自分ごととして考えていただけるようにするか、視点、観点がありましたら教えていただけますでしょうか」
五十嵐教授「バイオエコノミーという概念を日本に持ち込んだときに、日本語で『生物圏に負荷を掛けない』『生物圏に優しい経済活動』といった言葉で説明したのですが、ネイチャーポジティブという言葉が出てきたときに、もっと踏み込んだ言葉にしなければいけなかったと感じたものです。ネイチャーポジティブという言葉が定着し、広まれば、脱炭素活動は様変わりするのではないかと思います。EU各国も最初からバイオエコノミーが受け入れられたわけではなく、教育などを通じて、それが良いことであると周知し、実践したら褒めるということを繰り返してきて、ようやく現在のようになっています。ごく自然に良いことをするし、褒めてもらうから実践するという意識になれば、それはもう『我慢』ではありませんよね。そういったことが組み合わさってくると、脱炭素もドラスティックに進むと思います」

短い時間ではあったが、川崎市の脱炭素の取り組みについて、非常に濃い内容の議論となった。川崎市は産業が集積しており、GICやカーボンニュートラルコンビナートにも見られるように、今後も市内外の企業の参画が強く期待されている。CSV開発機構としても取り組むべき課題が見えた機会となった。