7月27日に開催した全体セッションレポート、後半です。
前半の神崎亮平教授に続いて、『新技術のプレゼンテーション』として、株式会社GF技研の梅津健児氏(代表取締役)にお話しいただきました。

梅津健児氏(株式会社GF技研 代表取締役)

冷暖快適性のみのエアコンから脱皮して人々の健康・安全・命 、 地球環境、産業を守る新しい空調機 FFA を事業化します

梅津氏は、東芝で50年に渡りエアコンの研究開発に携わった後、独立し2008年にGF技研を設立。そこでは「企業で開発してきたエアコンを否定するようなものの研究に取り組んできた」と梅津氏は言う。実用化した新しいタイプのエアコンを「CSVエアコン」とも呼ぶように、その開発コンセプトや社会的影響は、CSV開発機構が目指すものとまったく同じ方向を向いている。

「インバーターやヒートポンプなど現在のエアコンの技術をずっとやってきたのですが、このエアコンをこのまま使い続けていいものなのか。エアコンが誕生して70年使い続けた結果、すぐそばにすごい危機があるのが現在の状況ではないでしょうか。私たちが現在開発しているのは、これまでのエアコンの常識を覆し、この危機を解決するCSV的にも意義のあるものであると思います」

 エアコン70年の歴史によって生じた危機とは、消費電力の増大、人類の健康と生命への影響という地球規模の問題と、エアコンの価格競争による利益とシェアの減少という産業的な問題の2種類がある。

 消費電力の増大は、すでに普及しているエアコン使用量の増加とともに、熱帯・亜熱帯の後進地域でのエアコン台数の爆発的増加によるもの。2050年までに、エアコンの世界普及台数は現在の3倍になり、使用電力は総発電量の30%を占めるまでになると言われている。現在のままでは、日本国内ではグリーン成長戦略の巨大ブレーキとなり、夏の電力逼迫も深刻化する。世界規模では温暖化や気候変動にも影響が出るとする。

 健康と生命への影響とは、換気や除湿・加湿が不十分な現状を指す。窓を開けて換気すれば良いのか、それで十分なのかどうか。コロナほかさまざまな感染症が流行している今、生命と健康を守る新しい空調が求められるという。

 そして、産業面の課題とは、日本が持つ市場優位性が崩れるリスクだ。現在世界的なエアコンの市場規模は15兆円あり、日本はそのトップリーダーとして世界を牽引してきたが、後進国でのエアコン需要の増加に伴い、中国などに技術が流出し、安いエアコンが大量に出回ることが予測されている。その時、兆円規模の日本の産業を守ることができるのか。

「私たちが作ろうとしている新しいエアコン『Fresh Free Air-con(FFA)』は、こうした課題を解決し、劇的に市場を変える可能性のある製品です。目指すのはスマホの爆発的普及を実現したAppleのような存在。7年かけて実用化、商品化することに成功しました」

 FFA=Fresh Free Air-conという名前は、「フレッシュで、さまざまな制約からフリーなエアコン」を目指すという思いから付けられたものだという。一体型・空調制御型で、大風量、換気、陽陰圧の制御が可能。消費電力は既存エアコンの50%と大幅な省電力を実現する。

 「間接水蒸発式熱交換器技術(Indirect Evaporative Cooling。IDEC)」、「デシカント間歇回転式除湿ユニット」などの新技術がこれを実現しているもので、殊にIDECは「もっともインパクトのある技術」と梅津氏は胸を張る。水の蒸発潜熱を利用した冷却新技術で、換気ロスを解消し、冷房しながら外気で冷却するなど、多目的な冷却システムだという。また、現在エアコンで主流の技術となっているヒートポンプを併用するハイブリッドシステム、センシングを中心としたIoTの活用なども構想しており、より高性能な空調の実現を目指している。

 実用化された商品はメンテナンス性の向上により、既存エアコンの平均寿命13年に対し30年と大幅に延伸。売価/寿命年数で見ると、既存エアコンに対し20%の優位性がある。新製品は展示会で出展され、大きな反響を呼んでいるという。

 また、これまでの工業製品の基本コンセプトは、効率性・合理性を追求し、できるだけ汎用性の高い製品を作るところにあったが、FFAはその逆を行く。

「FFAは100モデルで、100%のお客様のニーズに応えることができる製品にします。顧客(エンドユーザー)、事業者(販社)、社会、そして地球すべてに対し、Shared Valueを提供するものだと自負しています」

 住宅用はもちろんのこと、古いオフィスビルやマンション、衛生管理が求められる病院や、学校、レストランなどの施設、工場や倉庫、さらには家畜小屋などでの利用も見込み、さまざまなモデルを開発している。

提供するShared Valueは、顧客に対しては最適な温熱・空気質環境、健康・美容、コスト面のメリット。事業者(販社)には、価格競争からの脱却、空調事業のリーディングカンパニーの可能性。社会に対しては、脱酸素社会への貢献、建物も含めた長寿命社会の支援、地球に対しては環境負荷の低い空調と、あらゆるプレイヤーに価値を提供できると梅津氏は言う。

 今後、CSV開発機構との連携を深め、加盟する企業とは事業提携を期待していると話す。「新しいエアコンの開発競争は激化しており、できるだけ早く市場投入を本格化したい」ためで、FFAを販売する事業者を募集したい考えだ。

「数年のうちに新しいエアコンが出てくることは間違いないので、国内だけでなく世界にも売り込んでいける事業者と連携したいと考えています。この事業は世界のトップを狙えるもの。CSVの理念に沿って展開していきますので、少しでも興味を持たれた方、ぜひ一緒に事業シナリオを考えていきましょう」

 「CSVエアコン」の二つ名を名乗るGF技研のFFA。今後CSV開発機構からどれだけの企業が連携に名乗りを挙げるか、期待される。